居酒屋にコロナウイルス検査キット設置?
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、保健所などの行政機関が行う検査のほかに、個人で簡単に検査できると謳ったコロナウイルス検査キットがインターネットや街中で販売されるようになった。
最近ではクラスター(集団感染)の拡大を防ごうと、地方自治体が検査キットを配るといった動きもある。検査キットはどんなものなのか、岐阜市内で販売されていたものを購入し、実際に試してみたケースもある。
居酒屋に自販機 2か月で200個販売
「自宅で簡単に検査できます PCR検査キット発売中」3月中旬、岐阜県柳ヶ瀬のラーメン居酒屋「ぐらっちぇ東」の店先にこうした宣伝文句が記された旗と、自動販売機が設置された。販売されているのは新型コロナウイルスの「抗原検査」「抗体検査」「PCR検査」の3種類の検査キットだ。
なぜ飲食店で検査キットが販売されているのか、店舗に尋ねると、「病院に行ったがPCR検査をうけさせてもらえなかった」と店の利用客に聞いたのがきっかけだったという。
新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店の売り上げが減少する中、自販機で検査キットを販売するケースがあることをニュースで知り、「自動販売機なら24時間商品を売れる」と販売を開始した。
飲食店が検査キットを販売していると知った企業からの注文もあり、2か月で3種類の検査キットが約200個売れた。購入者からは「陰性だとわかり安心した」「誰にも知られず、こっそり調べられてよかった」などの声が聞かれたという。
10分で検査結果 実感わかず
3種類の検査キットのうち、約10分で検査結果がわかる「抗原検査キット」を見てみると、キットの箱を見ると、中国製のものと福井県のメーカーが販売していた。
開封すると、綿棒や説明書、検査用の抽出液が入ったプラスティック製の容器が入っていた。説明書に従い、まず長さ約20センチの綿棒で口の粘膜を採取、口の粘膜がどこにあるかわからなかったがインターネットで検索しながら両頬の裏側を綿棒でこすった。
粘膜がきちんと採取できているかどうか確証がないまま、次は抽出液の入った筒状の容器の中に綿棒を差し込み10回ほど念入りにかき混ぜた。これで検体と抽出液が混ざった状態になるようだ。この検体を混ぜた抽出液を検査用のプレートに2滴垂らし結果を待つ。
10分後にプレートを確認すると、プレートの「C」の位置に1本だけ赤い線が入っていた。陽性の場合は「C」の位置と「T」の二か所に線が2本出るはずなので結果は陰性ということだ。
箱を開けてから結果が出るまで約20分、あっという間だったため検査を受けた実感はわかない。他の「PCR検査キット」の場合は自分唾液を採取して検査所にキットを郵送すると数日後に結果がメールで知らされるという。
厚労省の承認もなく精度に疑問
厚生労働省によると「PCR検査」はウイルスを構成する遺伝子の塩基配列を調べる検査、一方「抗体検査」はウイルスを作るたんぱく質への反応がないかどうかを調べる。「抗体検査」はウイルスそのものではなくウイルスに反応して体内で作られる抗体の有無を調べ、過去に感染したことがあるかどうかを判定する。
行政機関が実施するPCR検査の受診対象者となるのは医師が「検査が必要」と判断した人か、保健所からの陽性者の濃厚接触者と認定された人に限られる。このような状況の中、岐阜県飛騨市は行政検査の対象にならない人を対象に、希望する市内の介護施設や一般事業所に対し、厚労省に薬事承認された「抗原定性検査キット」を配布している。
同市は同じ職場で感染者が出た際は、行政検査の対象外となった人に検査キットを使ってもらうことを想定する。市の担当者は「無症状でも陽性の疑いがある人を早く見つけ出すための配布」と説明しており、検査キットで陽性が出た人には行政機関でPCR検査を受けてもらう。
厚労省はこうした地方自治体の取り組みを「キットは迅速に結果が出るため早期に感染の疑いがある人を見つけ出し、医療機関の受診へと繋げる効果がある」と評価している。
しかし、地方自治体が配布するものとは異なり、市販で流通している検査キットは厚労省の承認を得ておらず、診断目的ではない「研究用」との位置づけだ。厚労省は「市販の検査キットは検査の精度が不透明、もし院生が出ても絶対に大丈夫と思わずに感染対策を続けてほしい」と呼び掛けている